くつ下の作り手、株式会社創喜

奈良のヒト

株式会社創喜は、くつ下の生産で有名な奈良県・広陵町にて上質なローゲージのくつ下を生産しているメーカーさん。広陵町のくつ下生産をテーマに、2019年9月10日、同社代表である出張(でばり)耕平さんにインタビューを行いました。

株式会社創喜について

株式会社創喜の前身は、現社長の曾祖父が90年前に立ち上げた出張靴下工場。当時は、農家の副業として納屋でくつ下を製造する生産者が多かったそうです。広陵町には200社ほどのくつ下メーカーがあり、軍の需要も追い風としながら、くつ下産業は活況でした。生産の各工程を親戚同士で分担しながら、くつ下の生産を支えていました。

ベビー用のくつ下、婦人用のくつ下、ビジネス用のくつ下、タイツ。各生産者は、それぞれが専門とするくつ下を生産していました。出張靴下工場は子供向けのくつ下を得意としていたそうです。

株式会社創喜にて著者撮影

しかし、中国などで作られた海外生産のくつ下が増え、価格競争が厳しくなっていきます。そうする中、広陵町のくつ下メーカーはだんだんと減っていき、現在では40社ほどに。一時期、創喜もくつ下の生産を中止していました。そして、くつ下の機械を改造して膝のサポーターやレッグウォーマーといった生活雑貨を生産していたそうです。ただ、他のくつ下メーカーもそういった生活雑貨に手を出し始めるようになります。

また、広陵町のくつ下メーカーは、OEM生産が主流。すなわち、いろいろなアパレルブランドのくつ下を代理で生産していました。逆に言えば、自社ブランドのくつ下は少ないのが現状。消費者の好みが多様化する中、OEM生産も多品種・少量生産にシフトしていきます。

そのような中、15年ほど前から、現社長が組織の立て直しを始めます。自社ブランドの販売も見据えながら、屋号を「創喜」に変えて、最終的には法人化します。法人化した理由は、創喜で働く人にしっかりとした福利厚生を提供したいから。

株式会社創喜にて著者撮影

一部の取引先がくつ下を必用とし始めたことをきっかけに、自分たちが本来作ってきたもの、自分たちが作って嬉しいものに生産をシフトします。もちろんそれは、くつ下です。現在は、生産量の7割ほどがくつ下に。そして、それらの変革の背景には、現社長の大きな夢がありました(後述)。

さて、現在、創喜が特に得意としているのは上質な素材を使ったローゲージのくつ下。職人たちの手によって、ヴィンテージな編み機から、素材を肌で感じやすい高級なくつ下が生み出されています。創喜のくつ下のコンセプトや商品のラインナップは、是非、同社のウェブページで確認してみてください。

誰とつながり、仕事をしているのか

仕入れ先としては糸商が最初に挙げられます。いわゆる、糸屋さん。ただ、くつ下は糸の巻き方やワックスのかけ方が特殊で、くつ下専用の糸を購入しているそうです。それらの糸の生産には、紡績工場、染色屋さん、巻き屋さんなどが関わっています。

ただ、糸は、くつ下の生産者が見ればどこの糸を使っているかは分かるため、真似されてしまう可能性もある。だから、糸の展示会などにも足をよく運び、これまで使ったことのない素材について研究を続けているんですって。

次に語りたいことは、同社のブランディングについて。過去(前職)にブランディングやマーケティングを学び、グラフィックデザインのスキルも持つ人材をスタッフとして招き入れ、カタログ・ウェブページ・SNSなどで一貫したメッセージと世界観を発信し始めています。こういった情報発信の土台があってはじめて、創喜の自社ブランド商品がカッコよく世の中に発信されていくのでしょうね。

charix souki

また、同社は、チャリックスというイベントを行っています。織り機を改造して自転車と接続(!)し、ペダルを漕いだらくつ下が編みあがっていく。そんな素敵な体験ができるイベントです。

そういった情報発信を行っていく中で、いろいろな方面から声をかけてもらえるようになったようです。コラボで一緒に何かしませんか、とか、イベントに来てもらえませんか、とか。

現在、自社ブランド商品は、セレクトショップや一部のアパレルで販売中。高品質なくつ下の魅力は人が説明しなければなかなか伝わらない。だから、接客ができるお店に置いてもらっているのですって。ただ、それらのショップは県外のショップがメイン。「どこで買えるの?」という問い合わせも多く、今後は県内で気軽に買ってもらえるようにしたいとおっしゃってました。

奈良おしごと曼荼羅(株式会社創喜)

奈良でビジネスを行う魅力とハードル

現社長とスタッフの方が口をそろえて言っていたことが、「家の近くで仕事ができたほうがストレスが少ない」ということ。自然が多い環境に住み、朝食をゆっくり摂り、夕食後には趣味の時間をたっぷりとりたい。大阪での通勤経験のあるお二人は、電車の人混み、長い通勤時間などに違和感を感じていたのかもしれません。

著者撮影

一方、広陵町の人口は増えており働き盛りの人も多い中、くつ下の生産者は増えていない現状があります。日本一の産業を再び盛り上げていくためには、そんな若い働き手にアピールしていきたいところです。

今後のビジョン

テーマパークを作りたい。現社長はそう語ります。

外に売りに行くのではなくて、世界中から買いに来てくれるような場所を作りたい。観光客に「奈良に来たんだから広陵町でくつ下を買って帰ろうか」と思ってもらいたい。若い人に広陵町に来てもらいたい。

同社はそれに向けて着々と準備を進めています。「創喜」という名前で法人化し、自社ブランドを立ち上げ、それをアピールするウェブの土台を作り、人の目を惹くチャリックスというイベントを行い、コラボレーションできる仲間を増やし・・・。

幸い、広陵町は古墳の多い町。創喜から近い馬見丘陵公園は、公園内にたくさんの古墳があったりします。そういった観光資源の魅力も借りながら、広陵町をくつ下で盛り上げられたらいいよね。そのように現社長はおっしゃっていました。創喜の挑戦はまだまだ続きます。

チャリックスという人の目を惹くイベント、しっかりとデザインされたウェブやカタログ。それらを少数精鋭の人材で進めながら、スタッフの生活のことも考えている。そのような現社長のビジョンと細やかな配慮がとても勉強になりました。今後も、創喜さんの活動をウォッチしていきたいと思います。

今回の読み解き手法
広陵町でくつ下を生産されている株式会社創喜で取材調査を実施。
参照
株式会社創喜のウェブページ
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