柿と大和当帰の作り手、益田農園

奈良のヒト

益田農園は、柿の生産量で全国1位の奈良県五條市にて、柿・キャベツ・玉ねぎや、生薬として使われる大和当帰などを生産されている農家さん。奈良を代表する農作物である柿や大和当帰をテーマに、2019年8月26日、農園主である益田吉仁さんにインタビューを行いました。

益田農園について

益田農園のこだわりは、循環型農業。近隣の酪農家から畜産たい肥をもらって使ったり、米の余剰部分を活用した肥料を採用したりしながら、出来るだけ農薬を使わないスタイルで農業を営まれています。

農作物としては柿、キャベツ、玉ねぎ、米、大和当帰、紫蘇など。取材の際にハウス柿をいただいたのですが、小ぶりだけれどもとても香りよく、美味しくいただきました。柿にはビタミンA、ビタミンC、タンニン、食物繊維など健康な成分がたっぷりと含まれているので、元気もいただいた気がします。

次は、もう一つの生産物である大和当帰(やまととうき)について。ちなみに、大和当帰をご存知でしょうか?体を温め血行を良くする生薬で、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などの漢方薬の主成分です。女性の病気の治療にも幅広く用いられる生薬ですね。根の部分を乾燥させることで生薬になり、葉の部分は食用で食べることができます。化粧品の成分として、もしくは、薬湯(当帰風呂など)の素材としても使われています。

奈良県立図書情報館の展示スペースにて著者撮影

大和当帰の畑を見せていただきましたが、とてもたくさんの当帰が元気に植えられていました。地上の部分が立派だと根も立派に育っているようで、しっかりと茎が育っているかどうかで生育を見分けるそうです。

誰とつながり、仕事をしているのか

益田農園では循環型な農業を営まれているということもあり、主力の生産物である柿やキャベツについては縁のあった関東の生協さん・奈良の生協さん・奈良の加工業者さんとダイレクトに取引をされています。同じ志をもった、地元の農家数件と奈良五條産直組合という名前で、農産物を出荷するスタイル。生協はエコや健康に対する意識が高く、組合の価値観とマッチしたのでしょう。

一方、大和当帰の根については生薬の会社が販売先。また、大和当帰の根は化粧品の成分としても使えるため、化粧品を他のメーカーにOEMで生産してもらったりもしています。大和当帰の葉は薬事法の対象外なので、奈良県のアンテナショップ(奈良のうまいものプラザ)などに流通させています。

奈良のうまいものプラザ
www.narano-umaimonoplaza.com

仕入れについては、種・農薬・肥料・資材などを購入。例えば、肥料に関しては、地元五條市の有限会社藤万さんから質の高い肥料を仕入れられています。農薬や肥料には特約店がそれぞれあり、特約店を通して購入するスタイルが一般的。農薬についてはネットでも購入はできるけれども、顔の見える特約店のほうが品質が信頼できるようです。

有限会社藤万
fujiman.co

これらをひとつの図としてまとめておきましょう。

奈良おしごと曼荼羅(益田農園)

奈良でビジネスを行う魅力とハードル

奈良でビジネスを行う魅力は・・・ちょっとお答えづらそうでしたが・・・生まれ育った場所なので、「耕作放棄地にはしたくないね」とおっしゃっていました。

最大の問題は、デリバリー(配達)。農家が配達する場合は人出も足らないし、人件費も見合わない。しかし、誰かが配達を依頼すると農産物の価格が高くなる。しかし、そのような状況であるにもかかわらず、直売所に農家がバラバラで届けているという非効率的な現状もある。

益田農園でも、奈良北部の「奈良のうまいものプラザ」では農作物を販売できているが、奈良の中部や南部では農作物を売る窓口がないようです。

五條市では大量に収穫できる農産物は少なく、多品種で育てている。小麦農家もいれば、益田農園ではキャベツを生産、卵の生産者もいれば、豚を飼っているところもある。五條市産のお好み焼きが出来てしまいますね(笑)。ただ、このように取り扱い品目が多いと、デリバリーの手間も増えるためにビジネス化しづらそうですね。

「大和野菜」がブランド化されてきていますが、これも少量多品種の生産で、かつ、直取引しているレストランも少量での持ち込みを望んでいる・・・いずれにしてもデリバリーが最適化されていないことは大きな問題のようです。良くない例えかもしれませんが、ボランティアで運ぶ人がいたら、もっと奈良県内で物が動くのでしょうね。

大和当帰については、奈良県が漢方のメッカプロジェクトという取り組みがあり、大和当帰の特設サイトも作っているのですが、生産者に嬉しい施策が施されている訳ではないようです。

漢方のメッカプロジェクトにおける大和当帰の特設サイト
http://www3.pref.nara.jp/sangyo/yamatotouki/

大和当帰の根は厚生労働省により単価がおおまかに決められている(※)ようで、生産するだけ赤字になるのが現状。益田さんが費用の計算をしたところ、根を洗う人件費と売値が同程度なんですって。植え付けや肥料、草抜きなどの人件費が赤字になる模様・・・。一方、奈良県の高取町や曽爾村などでは大和当帰の生産者に補助金が出るようで、生産が増えたために根が余り始め、値崩れを始めているという問題もあるようです。問題が複雑に絡み合っていますね・・・。

※漢方薬の売価を抑える目的で、中国産の(安価な)当帰に価格設定が合わされている。専門家は国産の当帰のほうが品質が高いと言うが、薬事法上、「奈良県産」といったことを漢方薬の販売時に訴求はできない。

今後のビジョン

益田農園ではすでに大きめの規模で農業を進めているが、さらに規模を増やしていきたい。また、奈良県内で奈良県産の農作物の消費を増やしていきたい。そのためにはデリバリーの問題も解決しないといけないよね。その前に、益田農園の農産物が食べたいと思ってもらえるようにならないとダメですね。そのように今後の夢を語っていただきました。

市町村単位で柿の生産がNo.1の五條市ということですが、スーパーで売られている柿は和歌山産の柿が多いそうです。奈良県産の農作物を仕入れるスーパーに行政が補助金を出すなど、県内の農作物を県内で消費するための取り組みを増やしていけると良いですね。

今回の読み解き手法
五條市で柿や大和当帰を生産されている益田農園で取材調査を実施。
参照
益田農園のウェブページ
奈良県、漢方のメッカプロジェクトのウェブページ
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