文化財の保存/修復というお仕事

奈良のヒト

奈良には国宝や重要文化財をはじめとした文化財が多くあります。私たちがそれらを当時のままで鑑賞できている背後には、保存/修復のたゆまぬ努力がありました。本記事では、そのような文化財の保存/修復について読み解きたいと思います。

文化財は朽ちるもの

本記事を書くことになったきっかけは、文化財の保存/修復に関わっている友人との会話。文化財の保存/修復の現場で行われているいろいろな努力について教えていただいたので、この記事で共有したいと思います(著者のほうでも情報を補った上で記事にしています)。

上記の見出しにもあるように、文化財は朽ちるもの。例えば、土の中に埋まっている木質の埋蔵文化財。それらはかろうじて原型を留めているものの、数百年~千年に渡る高湿度の環境下(土の中)でボロボロな状態になっている。だから、土の中で発見したとしても持ち上げることすら難しいようです。

以下は桜井市立埋蔵文化財センターの記事ですが、これらの文化財がいかに危うい状態で見つかるのかを物語っています。水浸の状態ではさらに腐朽が進むが、乾燥させても著しい変形が起こるという危険な状態。それらをいろいろな科学技術を駆使しながら保存/修復させるプロフェッショナルがいるおかげで、私たちが博物館やお寺で文化財を目にすることができる訳です。

桜井市立埋蔵文化財センターのウェブページより

ここで、「文化財」という言葉について少しだけ説明します。文化庁によると、それぞれの文化財は以下のような体系で分類されています。演劇や音楽といった無形の文化財もありますが、多くの文化財は有形のもの。それらを劣化により壊れないように保存処理をしたり、壊れた部分を治すのが、文化財の保存/修復のお仕事という訳です。

文化庁のパンフレット「未来に伝えよう文化財」より

保存/修復のいろいろ

以下は元興寺文化財研究所のウェブページで説明されている木質文化財に対する保存処理方法です。簡単に言えば、木に薬剤をしみ込ませて腐らない/変形しないようにした上で、見た目を補修。木だけではなく鉄も朽ちるので、鉄にも保存処理を行います。一方、土器などの焼き物は、(バラバラに割れはするものの)腐りにくいようです。

元興寺文化財研究所のウェブページより

以下、そのような文化財の保存/修復に関するいくつかのエピソードをお伝えしますね。

  • 文化財の保存処理は定期的に行う必要がある。例えば、大量の銅剣の補修が必要な場合、今年はこの数十本、来年はこの数十本というように、ローテーションで保存/修復の処理を行うケースもある。保存/修復という仕事は1回では終わらない、何代にも渡って引き継いでいく仕事なのですね。なお、金属の文化財の場合、銅製のものよりも鉄製のもののほうが腐食のスピードが速いんですって。
  • 博物館などに展示している土器には破片を組み上げたものも多く、接着剤が劣化して接着力が落ちてくると、一度接合を解体して、耐久性の高い接着剤で接合し直します。
  • 仏像等の接着で使われる膠(にかわ)も経年で接着力が損なわれる。その場合、土器と同様、接着し直す必要があります。接着に膠(にかわ)を使うか現代の接着剤を使うかはケースバイケース。
  • 発掘現場で処理しづらい形状の埋蔵文化財が見つかった場合、周りの土ごとそのままどっさりと持ち帰った後に、保存/修復の処理をすることもあるようです。
  • 最近は三次元計測機やCTスキャンなどで精度高く文化財を計測できるようになってきているそうです。それにより、文化財を置く「台」を高い精度で制作できたり、文化財のレプリカ(※)の作成に3Dプリンターを活用できるようになってきているそうです。※脆くて展示できない文化財を展示するために、レプリカは重要な手段の一つ。

文化財の保存/修復に関わる人々

文化財の保存や活用は、文化庁が主導で執り行われています。ただ、具体的な方針は都道府県や市町村が策定。そして、それらの実務は様々な関与者が協力し合いながら行われているようです。

文化庁の資料「文化財保護法の改正の概要について」より

特に、各都道府県の教育委員会が文化財の保存・活用に関与しているみたいですね。文化財保護法にもしっかりと記載されています。

ただ、保存/修復のオペレーションにおいては、関与者もそれほど多くなく、シンプルにやりとりがなされている印象でした。

  • 博物館や社寺といった文化財の保有者が各都道府県の教育委員会に相談し、保存/修復を行う団体に取り次ぐケース
  • 文化財を擁する社寺や伝世品(人々から大事にされてきた美術品など)を所有する個人などが、保存/修復を行う団体に直接相談するケース
  • 以下の図には記載していませんが、発掘調査の主催/同行や上述したレプリカの作成なども彼らの活動としてカウントいただければと思います
  • また、正倉院など、文化財の保存/修復を行うスタッフを自前で囲っている団体もあるそうです
奈良おしごと曼荼羅(文化財の保存・修復)

今後、博物館や社寺などで文化財を目にする際は、今回お話ししたような文化財の保存/修復についても思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、奈良大学では文化財の研究~保存/修復を学べ、一部、保存/修復の実務も行っているそうです。文化財の担い手として、ぜひ、活躍していただければと思います。

奈良大学文学部文化財学科のウェブページより
今回の読み解き手法
文化財の保存/修復に関わっている友人へのヒアリングをベースに、各種の保存/修復の方法や団体をいくつか調べた上で記事化。
参照
文化庁の文化財に関するウェブページ
奈良文化財研究所のウェブページ
桜井市立埋蔵文化財センターのウェブページ
元興寺文化財研究所のウェブページ
奈良大学文学部文化財学科のウェブページ
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