奈良は観光都市のイメージが強いかもしれませんが、もちろん、産業は観光業だけではありません。奈良県に住む人は、どのような仕事をして暮らしているのでしょうか。本記事では、奈良県下の仕事(産業)について、複数の視点から読み解きます。
空から奈良の仕事を見渡す
まずは、人工衛星の高度から奈良を見てみましょう。下の地図を見ていただくと分かりますが、奈良の南部と東部は大部分が森に囲まれています。奈良県の総面積の約80%が森林です。北西部の奈良盆地は森林ではありませんが、実感値としては大半の土地が住宅地か田畑です。
次に、鳥の目線から奈良の仕事を俯瞰してみましょう。下の写真は、奈良盆地の南側に位置するミグランスという施設の展望フロア(10F)から望む奈良盆地です。この場所から街を見渡すと、いろいろなことが見えてきます。まずは、奈良盆地を囲む山々。また、山々に囲まれた多くの民家。そして、それらの合間に見え隠れするビルや看板から、企業の存在を伺い知ることが可能です。具体的には、不動産会社、銀行、飲食店、小売店、学習塾の看板やビルが目に留まります。お金を銀行から引き出して、外食したり、お買い物したり、子供を塾に行かせたりするのでしょう。人生の節目には次の住まいについて相談したりするのでしょう。そこには住民の生活に必要な産業は備わっていると言えそうです。
しかし、この窓の風景を眺めているばかりだと、「奈良県の産業って、たったこれだけ?」と不安な気持ちにもなってきそうです。例えば豊田市はトヨタ自動車とその関連企業で一つの産業を成していますし、北海道はジャガイモや小豆で全国の80%以上のシェアを誇る農業国で、それぞれ県外から大きくお金が入ってきているのでしょう。そのような視点で見た時、奈良県には何があるのでしょうか。
データから奈良の仕事を見渡す
産業の全貌は街を歩いてるだけでは見えないので、いろいろなデータを参照しながら確認していきます。
県内で働く人と、県外で働く人
まず、奈良県の労働人口のうち、約30%は県外で働いています。その割合は埼玉県に次いで全国第二位。多くの労働者が昼間は大阪や京都に出向いて仕事をしています。
特に、県外で働く人の割合が多いのは奈良県北部のエリア。近鉄やJRを使って、電車で都市部までアクセスしやすいエリアです。本記事で分析の対象としているのは、残る70%の県内労働者についてです。
県内の産業構造
労働者の数は以下のグラフから確認できますが、スーパーなどのお店(卸売業・小売業)、病院や福祉施設(医療・福祉)、塾などの教育関連(教育・学習支援業)など、住民の生活を支えるための産業が目立ちます。ミグランスの展望フロアで垣間見た産業のイメージに近いですね。奈良県内で働く労働者の多くは、このような住む人の生活を支える仕事をしていると言えるでしょう。
一方、県外からのお金の流入も見込める産業としては、「製造業」と「宿泊業・飲食サービス業」が目立っています。また、グラフにはないですが、農業・畜産業には、26,000戸の方が関与している程度。いわゆる一次産業就業者の人数は、全国でも最下位に近いのが現状のようです。
製造業について
何を生産して県内外に販売しているのか、という観点で製造業や農業を見ていきましょう。まずは製造業から。下の右グラフを確認すると、食料品、プラスチック製品、繊維、生産用機械、金属製品などが従業者数で上位となっています。
奈良県下で売上額がトップ10の企業は以下となります。DMG森精機さんは自動車や航空機の製造に必要な工作機械を作っている会社。圧倒的な売上高を誇っていますね。それに続き2位~10位は、銀行(南都銀行)、金属の精密機器(ツバキ・ナカシマ)、建設(村本建設)、自動車部品(GMB)、農作物(奈良県農業協同組合)、製造機器(ヒラノテクノシード)、食品(三和澱粉工業)、薬品(クオリカプス)、製造機器(タカトリ)となっています。一部、銀行や建設会社が含まれていますが、大半は製造業ですね。
ここにはプラスチック製品や繊維業は含まれていませんが、奈良下で売り上げの大きい製造業のおおまかなイメージをここから得られたのではないでしょうか。
農業について
奈良県が注力している農作物が県のウェブページ上で公開されています。柿、菊、イチゴ、大和茶、畜産(大和肉鶏・ヤマトポーク・大和牛など)、そして大和郡山の金魚。
実際の出荷額(次のグラフの上側)で見ると、柿は71億円と大きな存在感を示しています。イチゴやお茶は奈良県内ではブランド化していますが、出荷額から見ると、さらに拡大していきたいところかもしれません。ただ、農産物の総出荷額である436億円という数字は、製造業における売り上げ5位のGMB株式会社の一社分の売り上げ(643億円)にも及んでいないのが現状のようです。
地域ごとに産業を見る
経済産業省と内閣官房が提供している地域経済分析システム( https://resas.go.jp/ )を使うと日本の各エリアにおける産業の実態が分かるのですが、このシステムを用いて特徴的な地域の数値をいくつか確認してみましょう。
例えば、天川村は洞川温泉で有名ですが、温泉街があり、そこの宿はいつも賑わっています。労働者人口を見てみると・・・なんと、「宿泊業・飲食サービス業」に4割の方が従事されています。内訳を確認すると、その七割以上が「宿泊業」でした。観光に力が注がれていますね。
もうひとつご紹介します。東吉野村は桜で有名な吉野町の東に位置し、森と川の美しい村ですが、そこで労働者人口が多いのは製造業。その内訳としては「木材・木製品製造業(家具を除く)」がトップでした。上の写真の通り、木材加工でしょうね。ちなみに、同村では移住者の募集も行っています。田舎暮らしを望む方はチェックしてみてくださいね。
特徴的な地場産業
これまでは、一般的な分類に基づいた産業の読み解きを行いました。ここからは、地場産業という観点で奈良の産業を読み解きたいと思います。
その点については、 奈良県庁によって、下のイラストのように分かりやすく情報が整理されています。俯瞰すると、繊維、木、革を使った産業が目立ちますね。繊維に関しては、蚊帳の素材を使った服や手拭きなどがお土産として人気です。東部の宇陀では製茶と書いていますが、大和茶も市場によく出回っています。
次の図は、奈良県庁が「奈良が日本一」の産業を整理したものです。茶筅や墨などは国内シェアのほぼ100%を占めているようです。いわゆる茶道や書道といった日本の伝統文化の下支えをしているのですね。
以上、奈良の産業をマクロに確認していきましたが、いかがだったでしょうか。今後の記事で、奈良の産業の面白い側面を細かく読み解いていきたいと思います。
行政が公開している統計(リサーチ結果)を中心に奈良の産業の構成要素を俯瞰。
参照:
厚生労働省&内閣官房「地域経済分析システム」
奈良県「奈良県のすがた2018」
奈良県「地場産業イラストマップ」
奈良県「奈良県の日本一」