オフィスキャンプ東吉野は、人口の少ない奈良県吉野郡東吉野村に2015年に生まれたコワーキングスペース。自然の溢れる環境の中で、建築家・デザイナー・写真家といったクリエイティブ系の人材が集まって働くスタイルに日本中から注目が集まっています。2019年8月25日に代表の坂本大祐さんにインタビューを行い、同取り組みに関してお聞きしてきました。
オフィスキャンプ東吉野について
このコワーキングスペースが生まれたのは、東吉野村に移住していた坂本さんと奈良県の職員との会話がきっかけ。同じく東吉野村に移住していた友人デザイナーと一緒に自分たちが働ける場所を探していたところ、県職員との会話の中で「そのような場所があれば、他のクリエイティブ職の人も集まるのでは?」という仮説が生まれました。
他府県から、また、海外からの短期滞在も呼びかけており、その滞在中に東吉野村に魅力を感じてもらい、最終的には移住に関心を持ってもらうことも裏の目的。クリエイティブ系以外の方も含めると、すでに10組以上の家族が東吉野村に移住したのですって。今回の取材中も、英語でのディスカッションがオフィス内を飛び交っていました。
特にクリエイティブ職の人は個人で仕事を持っているので、移住後も仕事に支障はありません。質の高い空気・水・食べ物から都会では得られない刺激をクリエイター達は受け止め、また、現地の生産者と一緒に新しいモノ・コトを創っていくことも出来る。奈良のクリエイティブの中心地が、奥大和にも生まれてきているようです。
誰とつながり、仕事をしているのか
坂本さんは、はじめはローカルを中心に仕事をしていました。ただ、それを突き詰めていると、ある時期、急に仕事が広がりはじめました。他府県からも関心が集まり、いろいろなところに呼ばれ、他エリアの人とも繋がるようになったようです。今では、行政の視察も数多く受けるように。
また、オフィスキャンプ東吉野に集まるクリエイティブ職の人は、それぞれが独自の人脈を持っています。建築家の人脈、プロダクトデザイナーの人脈、漫画家の人脈など。特に、涼を求める季節、つまり夏に人々がオフィスキャンプ東吉野に集まり、その人脈が重なり、化学反応を起こし始めているようです。
仕事の発注は全国から受けており、現時点では行政の仕事が多めとのこと。北海道、愛知県など、奈良県に留まらずに仕事を受けていらっしゃいます。合同社員のリソースを活用して、建築からグラフィックまで幅広く仕事を受けています。
ローカルデザイナーの面白いところは、日常生活で顔を合わす相手の仕事も受けること。だから絶対に、間違ったことができない。真剣勝負になり、それがクリエイターの糧にもなっているようですね。
奈良でビジネスを行う魅力とハードル
奈良は日本のはじまりの場所。そして、いろいろなモノ・コトが下手に観光地化・ブランディングされておらず、自然に、呼吸をするかのように受け継がれている。アピールもしない、その外連味のなさが魅力だそう。京都はその真逆で、情報が編集されており、観光地としてのブランディングがしっかりとなされている。
奈良はそうではない“生”なものが多いことに、坂本さんは魅力を感じられていました。奈良が好きな人は、編集されていない、“生”な情報から面白さを感じ取れる人なのかもしれません。難解であることさえも楽しめる人、分からないものを分からないものとして楽しめる人に奈良はフィットしているのかもしれません。
そして、そのように手付かずな領域が多いので、これからビジネスを行う人にとって奈良は魅力的だという。自分で好きなように企画を考え、それを実現していくことができる。だから逆に、オーダーがないと動けない人には(今現在は)働きづらい環境かもしれません。
移動については、大阪⇔東京でも結局は移動するので、東吉野⇔東京もそれほど変わらない。だから、移動という面では、東京以外ならばどこで仕事をしても同じ条件では?都市は情報の交換には便利な場所だが、身体は自然を求めているはず。仕事以前に生活がある訳だから、最も質の高い環境に24時間囲まれながら仕事が出来ることを大事だと考えている。また、逆に情報をシャットダウンできるので、自分の精神のより深いところにフォーカスしていくこともできる。そのように坂本さんは語っていました。
今後のビジョン
奥大和のような自然と人とを、場合によってはテクノロジーを活用しながら結びつける場をもっと広げていきたい。力のあるクリエイター達が一緒に過ごし、場合によっては一緒に暮らせる場を創っていきたい。坂本さんの魅力的な夢を、最後に聞かせていただきました。
www.officecamp.jp
奈良県吉野郡東吉野村小川610-2
営業時間:10:00-17:00
休業日:火・水曜日
坂本さんという人、オフィスキャンプ東吉野という場、デザインやシェアオフィスに対する人々の理解、また移住者を増やしたいという行政の期待。そういった条件が重なり、奥大和におけるこの新しい活動が成功しているのでしょう。奈良県下にも移住者を募集している市町村はたくさんあるので、是非、ここから学んで各エリアの施策に落とし込んでいただければと思います。